夏の始まり

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「三十一年前、私達は自然観光に出かけて、その帰りに雨が酷く降りつけてきたから、近場の宿を探してそこで休むことにしたの。」 姉の方が坦々と話していた。 話している間、顔はずっと浮かない顔をしていた。 「そこには他の観光客も来ていた。私とるいは、先に寝ることにしたの。そして、夜中に目が覚めたら……回りが赤く染め上げられていて、横には両親が身体中から血を出して倒れていた。」 話が進むに連れて、姉の身体が僅かながら震えていた。 「真っ暗な部屋の中に、人影がうっすらと見えたの。そいつらの手は真っ赤に染まっていた。そいつらが私達に気が付いたみたいで、段々と近寄ってきた。」 俺の頭の中に、鮮明にその場の光景が映し出された。 あくまでも俺のイメージだけど、それでも良い光景ではないことだけは確かだ。 「私達は逃げるに逃げられず、そいつらによって殺されてしまった……はずなのだけど、何故か私達はここにいる。」 おそらくこれが、全ての始まりなんだろう。 「それで、今でも私達を殺した犯人を探している。」 俺はその場に立ちつくしていた。 二人の話に、ずっと聞き入っていた。 二人に、なんて声を掛けたらいいのか、解らなかった。
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