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──ごめんなさい。
歌姫は震える声で詫びた。
だが、村人たちの誰もがじっと──ある人は憎悪の、ある人は軽蔑の眼差しで──泣き崩れる彼女を睨みつけるだけだ。
──お前がしたことは許されない。そのせいで、いったい何人の人間が死んだと思ってるんだ!!
歌姫を囲む人々も、口々にその言葉に同意する。
──ごめんなさい。ごめんなさい。
歌姫はただ、謝罪の言葉だけを述べた。
それでも村人たちは彼女を許さない。
──殺せ! 殺せ! 魔女を殺せ!
その言葉と共に、村人たちは歌姫をなぶった。
だが歌姫はただされるがままで、わずかな抵抗すらしようとしない。
──ごめんなさい。ごめんなさい。
美しい顔を歪めて、歌姫はただ謝った。
しかし、その声も彼らには届かない。
歌姫は次第に崖の方へと追いつめられた。
──お前は歌で海に出た多くの人々を惑わし、拐かし、そして殺した。お前も彼らと同じく魚の餌となるのがいい!!
群衆の方から歓声が上がった。
魔女を殺せ、悪魔を赦すなと、声を揃えて叫んでいる。
その昔、彼女の歌を天使の歌声と讃えていたことも忘れて。
──ごめんなさい。ただ私は唄が歌いたかっただけ。それで人が死ぬなんて思ってなかったの……。
歌姫の訴えはしかし、群衆の怒号にかき消され、誰の耳にも届くことはない。
こうして歌姫は海の藻屑となって儚く消えた。
歌姫の眠るこの海では、今でもたまに唄が聞こえてくるという。
──だれか私を信じてください。
──だれか私を救ってください。
──だれか話を聴いてください。
──だれか一緒にいてください。
──たとえ夢でも構わないから。
歌姫の名はローレライ。
彼女が沈んだ海は今日も、涙の色に染まっている。
【終】
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