4Years ago

5/22

185人が本棚に入れています
本棚に追加
/405ページ
「ラストオーダー無しです。」 無事何事もなく一日を終えた。 あたしは修さんの巧みな魔法に掛かりお勧めメニューを何時もの倍頼んで貰えた。 「お疲れ様。今日は凄かったね。」 後ろから声をかけてくれたのはあたしより三歳年上の敦子さん。 伊東美咲似のあたしの憧れの女性。 大学四年生で資生堂に就職が決まっている。 今日は良い日だ。 修司さんに敦子さんに褒められちゃった。 バンドのイザコザも吹き飛んでしまう。 「ノーゲストです。お疲れ様でした。」 修司さんから号令が掛かる。 あたしたちはクローズ作業に入る。 「この景色,素敵よね。」 テーブルを拭きながら敦子さんが声をかけてくれた。 「はい,あたしも大好きです。こんな景色みながら恋人と食事出来たらなぁ。」 「そうね,素敵よね。結ちゃんは彼氏とかいないの?」 「いません,いません。19年彼氏無しです。あはは。」 「えーっ?嘘?かわいいのに!見る目ないなぁ,男は。」 「あたし共学だったんですが,引っ込み思案で。至って女子組でした。敦子さんは・・・いるんですか?」 「わたし?えっと・・・」 大きい目を見開いて,一度驚いてから頬を赤らめた敦子さんは何時になくかわいらしくみえた。 調子に乗ったあたしは 「えーっ!!教えて下さいよぅ!どんな人なんですか??」 ポンっ!!! いきなり後ろで大きな音! 「今日は頑張ってくれたからご褒美だよ。」 修さんがグラス三つにシャンパンを持ってきてくれた。 「結ちゃんはまだ未成年だからね。ノンアルコールにしたよ。」 慣れた手つきでグラスに注いでくれた。 男の人を初めて色っぽいと思った。 「みんなには内緒だよ。」 そういいながら修さんは窓に寄り掛かり乾杯の仕草を見せた。 閉店後の薄暗い店内。 月明かりが上手い具合に三人に影を落としあたしは空気に酔ってしまった。 「美味しい・・・。」 そうつぶやく敦子さんの唇が少し濡れていて同性のあたしは一瞬男になりたいとも錯覚した。 こんなシーンにあたしがいるなんて,時が止まって欲しいと心から願った。
/405ページ

最初のコメントを投稿しよう!

185人が本棚に入れています
本棚に追加