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「なんで!武,酷いよ!今日スタジオ予約してあるんだよ!ドラムいなきゃ練習にならない!」
電話で思わず叫んでしまった。
「大きな声だすなよ。
こっちはレポート忙しいんだよ。結花はフリーターだから暇だろうけど俺はゼミがかかってるんだよ!」
武の言葉が突き刺さる。
「酷いよ,あたしは真剣なんだよ。バンド組んだ時武だってプロ指向だって言ってたじゃない!なんで変わっちゃうの!?
大っ嫌い!」
言葉の途中で電話が切れた。
あたしはスタジオの真ん中で泣いてしまった。
「しょうがないだろ。」
ヒロに慰められる。
ベースをアンプから外しテツも帰り支度を始める。
「なんで!?テツまで?」
「萎えちゃった。俺もプロなんか考えてないし。前のライブだってチケットさばけなかったじゃん。金欠になるんだよね,バンド。
タイバンで出てた奴らの音聞いたか?
かなわねって。」
「だって全然練習しないからだよ!前にベース触ったのいつ?
リズム全然ズレてるじゃない!
そんなの伝わらないよ!」
「あーあーどーせ俺は下手くそだよ。お前とは違います。弾けない奴に言われたくないね。」
そう言ってテツは帰ってしまった。
「下手なんて言ってないょ。練習しょうって言いたいだけなのに。」
実際あたしはテツのベースが好きだった。ただ彼女が出来てから全然バンドそっちのけになってしまったのが悔しかった。
「お前,テツの事フッたんだろ。あいつが変わったのはそれからだぜ?
それにみんなプライベートがあるんだ。前みたいに集まれない,大人になれよ。」
ヒロはあたしの気持ちを見透かした様に言った。
「大人ってなに?練習そっちのけでキャーキャー言われるだけの為にライブするのが大人なの?
そんなんだからアンケートに下手くそって書かれるんだよ!」
言い過ぎなのはわかってたけど止まらなかった。
「俺に当たるなよ。しばらくは活動は無しだな。
俺も帰るよ。」
「待って!ヒロ,一人にしないでよぅ!」
「自業自得だろ。大人になれよ。」
そう言ってヒロも帰ってしまった。
どうしようもない喪失感。
でも頭によぎるのはバンドが上手くいっていた頃のみんなの姿。
全てが嫌になってしまった。
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