夏の記憶

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セミの鳴き声が、やけに頭に響いて居た。   俺は暑さにバテながら、ソーダアイスをくわえて洗濯物を干して居た。 今は夏休み。そしてここは大学の寮。 もちろん、俺には彼女がいる訳ないので一人暮らし。寂しい限りだ。 寮にはクーラーがあるが、夏休みは実家に帰る学生が多い為クーラーは切られて居る。俺は扇風機を回しながら、団扇で自分の顔辺りを扇ぐ。 東京の夏は暑く、汗で髪は張り付きタンクトップもしっとりとして不快極まりない。アイスだけが唯一の救いだが、それも随分溶けて居た。   ─セミの鳴き声が、煩い。   洗濯物を干し終わり、部屋に戻ってふと空を見上げれば、何処までも青い空と入道雲。それに気が取られ、一瞬の内に俺の意識は過去の記憶に埋もれて行く。     「まーくん、何してるの?」 少女だった。白いワンピースに麦藁帽子。俺は河原の草むらに寝転んで居た。 「雲、見てんだ」 俺は空を見たまま答えたつもりだったが、俺の顔を覗き込むようにして視線を合わす少女の所為で雲は見えなかった。 「まーくん、相変わらずへんだね」 少女が笑った。ひまわりを思い起こさせるような、元気な笑み。 「別にいいだろ」 俺は少し照れて、起き上がった。 午前中だからか、セミの鳴き声がしつこい。 「まーくん、今日は林に行かないの?」 小学生だった俺は、毎日林に虫取りに行っていた。ああそうだなと返し、俺は今日も荷物を持って林に向かった。 少女は付いて来る。 「まーくん、今日は何取るの?」 歩きながら少女は楽しそうに笑う。 「……てきとー。」 「何それぇ」 少女が微笑んだ。 胸のときめきは僅かだが、幼い俺には十分だった。 林に着く。 「まーくん、林って涼しいねぇ」 少女が楽しそうにはしゃぐ。 俺は気にせず…正確には気にしない振りをして、ずんずんと奥に進む。奥に進む毎に涼しくなって行くが、それに比例してセミの鳴き声が頭に響く。暑さもあって、俺は苛々していた。 「まーくん、今日も虫をころすの?」 少女がいきなり俺に言った。
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