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絶え間なく降り注ぐ白に彩られた雪原。
その白に映える様に黒い石碑が乱立し、そのどれもが、原形を留めないほどに砕かれて、周りには石碑の欠片が散らばり雪に埋まっている。
いくつもの崩れた石碑の中に一つだけ、その形を留めたものがあった。
その姿は半ば雪に埋もれてしまっているが、黒い体が、舞い降りる雪より尚白いその刻印をはっきりと浮かび上がらせている。
「―――」
その石碑の傍に、その“墓”に入るべき少年が立っていた。
降り続く雪は、不思議と少年を避けて通り、その足下も不自然に溶けていてまるで雪を円形に切り取った様だ。
自分の墓石を前にしても、少年の眼には何の感情も浮かんでいない。ただ黙って自分の名を刻まれた石碑を――刻まれた名を眺めている。
墓石に刻まれた文字は黒い石碑に負けないためか白い塗料で書かれ、雪に覆われた白銀の世界にあっても、その名は力強く輝いている。
――だがその輝きは少年にとって、痛みを感じるほど苦しい……、眩しすぎる輝きだった。
ゆっくりと、墓石に手を差し出す。
刻まれた名に指を伸ばす。
瞬間、少年の世界に闇が降りた。
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