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授業の終わりを告げるチャイムがスピーカーから流れる。
途端に教室をざわめきが包み、その雰囲気に押される様に教師が教室を出て行った。
それを見届けると教室の雰囲気は完全に生徒達のものになる。自分を抑制していた時間を帳消しにする様に、クラスの中心人物の周りに生徒が集まり、授業中には見れないような表情で笑い、語らう。
それを横目に、鮮藤は無駄な音を出さないように注意しながらゆっくりと席を立った。
今日の数学は五時限目。次の授業まで十分しかないが鮮藤はこの雰囲気が苦手だった。
理由は特にない。何故か落ち着かないのだ。
いつもの行動、もう日課と言ってもいいだろう。教室の外に向かいつつ、浮かんでくるいくつかの候補から時間を潰すのに適した場所を捜していると、
「――ヨッ」
肩を叩かれる感触とともに声を掛けられた。聞き慣れた声。
振り返ると予想通りの男が顔を覗き込んできた。日本人には不自然な白い瞳が、瞳孔の動きが解るほど間近にある。
「アレッ、何か怯えてないか?」
誰が誰に恐怖すると言うのだろう。ただ、近くに顔があったから驚いただけだ。
「何もそんなにオッカナガルことないだろ?誰もオマエなんか捕って食やしねえ」
勘違いで勢いに乗ったつもりなのか口調が荒いものに変わる。
気付けば、男の傍に座っている男子生徒の数人が面白そうな眼でこっちを見ていた。男もそれに気づいたのか態度が見るからに、強気に変化する。
ポケットに手を突っ込んで、先ほど効果ありと見たのか今度は悪意剥き出しの瞳がゆっくりと迫る。
―――嫌な眼だ。
男の思い描くシナリオに従うのは気に食わなかったので、怯えも怒りもないただ見るだけの眼で見返してやった。
多分、余程無感情な瞳が癇に障ったのだろう。もしかしたら舐められたと思ったのかもしれない。苛立ちを隠そうともせずぶつけてきた。
そんなつもりはなかったんだが、――いや、そりゃ嘘だ。そのつもりだった。
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