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いつの間にか教室のざわめきは静まっていた。
二人の剣呑な雰囲気に気付いたのだろう。
だが怖がって息を潜めているわけではない。
同じ展開が続いて退屈に感じていた人生に、いつもとは違うイベントが発生してその結末に心躍らせている。しかもそれが闘争に発展するかもしれないと知れば尚更だ。
人間は原初の本能として戦いを見るのが好きなのだろうか。
平たく言えば、野次馬根性が出たのだ。
無数の視線を感じる中、男は周りの生徒を意識してなのか、必要以上の苛立ちを込めて睨んできた。
この機に乗じて、自分は怒らせると怖い存在なんだと他の生徒に印象付けているのだろう。本当はそこまで怒っていないくせに。
―――くだらない。
そう思い、構わず教室を出ようとした時、男の高圧的な眼が前触れもなく後退した。
見れば、男の肩に手を置いて強引に引き戻している女子がいる。
まさか止めに入ってくる奴がいるとは思っていなかったのか、男は自分の肩を掴んでいる女子に驚き見開いた視線を向けている。
これには、鮮藤も驚いた。
このクラスにも、勝気で怖いもの知らずな性格の女子は何人もいる。
その内の正義感と使命感に燃える誰かが止めに入ったのだと思った。
だが、今、男の肩を掴んでいるのは予想する誰でもない。クラスでも指折りに大人しい、目立たない部類に入る女子だった。
その女子は掴んだ手を離し、いまだ状況を良く理解していない男の正面に、鮮藤と男の間に入り込むように立つと、二人より頭一つ分以上低い背を伸ばし男に詰め寄った。
「――止めてください」
女生徒の覇気とも言い換えれそうな威圧感と、それに伴う強い意思を宿した瞳が男の眼を咎めるように真っ直ぐ、貫いていた。
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