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「……迷惑、でしたよね……?」
思わず、ぼんやりと横顔を眺めていた目玉が白黒してしまった。増量される瞬き。
俯いたまま、一瞬だけ横目でこちらを捉え、だがすぐに慌てて下を向く渚の瞳。不安げな色を増す表情に、更に焦燥が加わるのが目に見えてわかる。
「……え、と。……うん、大丈夫」
何がだよ……。自分自身に突っ込んでみるが時既に遅し。
また泣いてしまいそうな雰囲気に、つい考え無しに言ってしまった。
「…………」
寄せられた膝に乗せた両手の辺りを、渚の視線が小刻みに泳ぐ。薄めの唇が緊張を乗せて、軽く結ばれる。
「でも……勝手なこと、して。勝手に……泣いて、勝手に……ーー」
言葉の最後、徐々に小さくなって尻すぼみに消えていく。動揺しきった、渚の所作。
もう一押しで、涙が零れそうなーー。
「ーーだから、大丈夫」
傾げるように、鮮藤の緩い笑みが渚の表情を強引に覗き込む。萎縮してしまった渚の世界に、優しげな声音が少しだけ入り込んだ。
「……ぁ……、……」
そしてすぐに視界から逃げる。
渚に当たらないように注意して身体の向きを変え、壁に背を預けて目線は階下へ。
下を見た意味は特に無い。見る対象は渚以外なら何でもよかった。
見られたままでは、言いたいことも言えないだろうと思っただけだ。多分、渚はそういうタイプなのかなと。
態勢を変えたのは……これも意味は無い。なんとなくだ。
「……あの」
「んー?」
なるべく軽い調子で応えて、相手の言葉を待つ。視線は向けず、笑みはそのままで。
「あの……、……ごめんなさい」
再びの言葉に、思わず苦笑する。それじゃさっきと変わらないよ。
その反応に、驚いた様子でこちらを見る渚。閉じられた唇が微かに開き、そして閉じる。その何気ない動作にも不安そうな要素が垣間見える。
「渚さん」
「……」
「渚さんって、よく謝るほうみたいだね」
その言葉に、虚を突かれたらしく渚はきょとん……と鮮藤を見た。拍子抜け、したのかな。
責められるとでも思ったのだろうか。
「そうだ……。とにかく、御礼を言わないと。まだだったの忘れてたね」
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