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1週間くらい前に、彼は個室に移った。もともと精神的にも異常があった彼は重ねて病気にかかり、入院した。命に関わる病気で、治らなかったら死ぬ。それ以上それ以下でもない。
夜になると苦しみは増し、居ても立っても居られなくなるらしい。現在は個室で孤独な生活を強いられている。
外は台風のせいで雨が病院の看板に照らされて、光りの粒として降りつけている。
何もない白紙のような病室で白紙のような彼の脳は考えを巡らせた。
『夜になると苦しい。でも少しずつ苦しみも薄れてきた』
白紙でなくなった彼の脳はさらに考えを深めた。
『何もすることが無いな、暇だ。あの夜の苦しみが恋しい』
外の雨脚は激しさを増し、風はそれを強引に奪うかのように吹きつける。今外に出たらきっと飛ばされてしまうだろう。
そのとき、ガラスが音も立てずに割れ、音も立てずに床に散らばった。
病人はガラスではなく、激しさを増す台風の轟音に気付いた。特に急ぐ様子もなく電話機に手を伸ばす。暇を少しでも埋めようと努める。
耳にあて、ボタンをひとつ押し込んだそのとき、白衣をきた男性が飛込んできた。
「今の音はなんですか!」
「窓が割れました」
『何で分かったんだ。確かに音は無かったし、台風の音で気が付くはずがない』
「そうか…困ったな」若い看護師は困っている。「今院長を呼んでくるので待っていて下さい」
若い看護師はドアを開けて、身をドアの外に出し、開けたドアを閉めて、足音を暗い廊下にわざとかと思う程響かせて走って行った。
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