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「武内は……まだ来てねえみたいだな」
「この時間にはもう登校してるはずなんだけど」
学校に到着した二人は昨日と変わらずに向けられる竜への好奇の視線を気にもとめず、一直線にA組の教室へと向かった。前側の扉から教室に入ると、武内の姿を探した。A組の生徒達は突然の竜の登場に一瞬ざわついたが、あまり関わりたくないのか、すぐに視線を逸らすとヒソヒソと声をひそめて話していた。
教室内に武内の姿はなく、武内の席にも鞄が置かれていなかった。どうやらまだ登校していないらしく、竜は舌打ちをした。すぐそこに犯人の手掛かりとなるヒントがあるのに、手にすることができない。そんな焦れったい状況に竜はいらつき始めていた。
「由貴? お前こんなとこで何やってんだよ」
「!! た、たけえーーー!!」
「え、えええええーー!?」
教室の入り口前で突っ立っていた竜と由貴の後ろからかけられた声に、由貴は勢いよく振り返る。そこには肩に鞄をかけ、不思議そうな顔で由貴を見ている武内が立っていた。
武内は由貴を見た後、隣にいる竜に視線を向ける。武内と竜は由貴を介した顔見知り程度の仲であった。武内が由貴と視線を戻すと、由貴は勢いよく武内の胸倉を掴み、そのまま廊下へと押し出した。状況がまったく理解できていない武内は、朝っぱらからの由貴の奇行に目を丸くさせながら、廊下の壁へと押し付けられていた。
「な、なんなんだよ……朝っぱらから」
「なあ……たけに聞きたいことがあんだけど」
「聞きたいこと?」
壁に押さえ付けられたまま、また由貴がふざけているのだと思って呆れたような目で由貴を見返す。しかし、由貴は今まで見たこともないような真剣な顔をしていた。その由貴の様子に驚きつつ、由貴の隣に居てこちらを見ている竜を一瞥した後、視線を由貴へと戻した。
由貴はじっと武内の目を見て、ゆっくりと話し始める。
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