16品目 効果音は効果的に

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 昼休み、図書室で本を借りてきたと言った武内が図書室に入っていない、というなんとも矛盾だらけ主張に話を聞いていた竜と由貴は目を丸くした。二人の顔には一体何を言ってんだコイツと書かれてある。武内はそんな二人の間抜けな顔に苦笑いすると、口を開いた。 「実はさ、前の日の放課後、図書室で本を読んでたんだけどな。そのとき、間違って本を手続きもせずに持って帰っちまったんだよ」 「言いながらの、確信犯なんだろ」 「ちげえよ!」 「それで、どうしたんだよ」  軽蔑の眼差しを向けてくる由貴に武内は苛立ちながら強く否定する。すると今まで黙っていた竜が口を開き、話を促した。武内はそれに驚きつつも、息を吐き、話を続けた。 「それで、あの日の昼休みに改めて借りに行こうと思ってさ。図書室に行ったんだよ。そしたら、図書室の前にいた図書委員の奴に新刊の『待ち人』が紛失したって騒ぎになってるって話を聞いてさ。やべえって焦ってたら、こっそり貸し出しのボードに書いておいてやるってそいつが言ったんだよ……だから、そいつに頼んで俺は教室に戻ったから、実際には図書室に入ってねえんだよ」  武内からことの真相を聞く。由貴はまだ話を頭の中で整理できていないのか右手で髪を掻き混ぜていた。由貴の隣にいた竜は、右手を置いていた下唇から離すと武内に視線をやった。 「じゃあ、あの日の昼休み、図書室に入ったのはその図書室の前にいた奴なのかよ」 「ああ、昨日本を返却しに行ったとき、確かに貸し出しになってたしな。それがどうかしたのか?」 「……なあ、その図書委員って誰だ?」  竜は武内の話を聞いたあと、一瞬口をつぐんだ。武内の話が本当であれば、あの日、武内は竜と阿部川の話を聞いていない。そして、武内が会ったという図書委員こそが話を聞いた人物。その人物の行動は一見気のきいた行為ではあるが、武内をその場から追い返すためにとった行動とも思える。  恐らくその人物が、阿部川殺害に関係している。  そして、今ある謎の全ての鍵を握るであろう人物。  武内の次の言葉を竜と、ようやく理解できた由貴が真剣な面持ちで待っていた。 「あ? 誰って    だろ?」
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