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竜がいるとは思わなかった久志は呆然としていたが、由貴に促され右側のソファへと腰掛ける。その隣に由貴が腰をおろした。由貴と久志が竜と向かい合う形でソファに座ると、なんとも言えない居心地の悪い雰囲気と沈黙が窓際の四人席を包んだ。
由貴が水の入ったグラスを2つ持ってきたウエイトレスの注文の催促を軽くあしらう。
その沈黙を破ったのは、久志だった。
「……なあ、なんなんだよ、この状況は」
「……わかんねえの?」
「は、はあ? わかんねえよ」
やや動揺した久志を竜は頬杖をしたまま見つめた後、頬から手を外し、ソファに背を預けた。ふうと一つ息吐き、テーブルの上に置いてあるアイスコーヒーのグラスを手に取っる。竜の行動を、由貴はただ黙って見ている。
竜はグラスに口をつけた後、世間話をするかのような軽い口調で久志に問いかけた。
「あのさ、浅田と阿部川やったのってお前じゃねえ?」
突然口を開いた竜の率直な言葉に久志は目を見開く。久志はテーブルの下で、膝の上辺りに置いていた手をぎゅっと握りしめた。
3人は竜が言葉を発した瞬間、まるで店内の全ての音という音が消えてしまったかのように感じていた。由貴は久志の次の言葉をじっと待ち、竜は鋭い視線を久志へと向けていた。
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