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竜と石崎が睨み合っていると取調室のドアが開き、あの時ファミレスについて来ていたもう一人の刑事、岡本が入ってきた。一見二十代半ばにも見える清潔感のある外見をしている。岡本は不機嫌そうな表情を隠そうともしない竜を一瞥した後、石崎へと歩み寄った。
岡本が石崎に何やら耳打ちすると、石崎はチッと舌打ちをして顔をしかめる。
「……おい、迎えが来たぞ。今日はここまでで勘弁してやるが、またすぐに連れて来てやるからな」
「……迎え?」
とっとと立て、と急かされて立ち上がり、刑事の後をついて取調室を出る。自分を迎えに来るなんて一体誰だ?と竜は俯いて考えながら足を進めた。そうして、前を歩く刑事が立ち止まった拍子に、下げていた視線を上げる。立ち止まった刑事の向こう側に見知った顔を見つけた。
「刑事さん、うちの息子は……」
「……まだ容疑が晴れたというわけではありません。いずれまたこちらへ呼ぶことになるでしょう」
「そうですか……」
――……親父。
竜と刑事に向かい合うように立っていたのはスーツを着た厳粛そうな男、藤嶋創司。竜の父親であった。
竜は父親の顔を見た瞬間、眉間に皺を寄せて舌打ちをする。
「竜、帰るぞ」
「…………」
竜を見つけた創司は顔をさらに厳しくした後、踵を返して警察署の外へと足を進めた。竜は両手をポケットに入れ、視線を下げたまま、その後を着いて行く。岡本はその後ろ姿を複雑な表情で見つめた後、視線を隣に立つ石崎へと移した。
「……もう、返してよかったんですか」
「いいわけあるか。……仕方ねえんだよ。あの親父さんに出てこられちゃあ俺達平はどうすることもできねえからな」
石崎は背広のポケットからクシャクシャになった煙草を取り出して、火をつけると、立ち去る竜と創司の後ろ姿を見ながら煙草を咥えた。
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