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警察署を出たあと創司が車の後部座席に乗り込んでいるのを、竜は黒塗りの車の側でさめた目で見ていた。「早く入りなさい」という言葉に眉間に皺を寄せながら、創司が乗り込んだドアとは反対側から車内に入っていく。
運転席にいる見慣れた顔の運転手がミラー越しに向けてくる呆れたような視線と目が合うと、竜は小さく舌打ちをして窓の外に視線を移した。
窓に映っている創司の横顔を竜は睨みつけると、直ぐに視線を外した。
「お前は一体どれだけ私に迷惑をかければ気がすむんだ」
車の走行音以外の音が消え、暫く沈黙が続いた後、淡々とした抑揚のない声で創司は顔を前に向けたまま口を開いた。
「…………」
「警察沙汰など、もっての外だ」
「…………」
「今回は迎えに来てやったが、次はないと思え」
この役立たずが、と忌ま忌ましそうに吐く創司に、竜は何も言い返さず、膝の上に置いていた左手を握りしめながら外を見ていた。
ヴーヴーヴー。
車内に再び訪れた沈黙を掻き消すかのように、携帯のバイブ音が響き渡った。
竜は右手をスラックスのポケットに入れると、まだ振動を続けている携帯を掴んで取り出す。折りたたみ式の黒の携帯を開き、画面を確認するとそこには見慣れた名前が表示されていた。
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