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「竜ー! 帰ろうぜ!」
桜ケ丘高校。
放課後の人も疎らな2年B組の教室に響き渡るような元気な声が響いた。声の主は、A組の岡本由貴である。黒髪短髪。学生らしい爽やかな髪型をしているのに、シャツの裾を出し、ネクタイすらしていないそのだらし無い服装がその爽やかさを半減させていた。
「ウルサイ。毎回毎回でけえんだよ、声が」
由貴の声に眉を顰め、不機嫌そうに淡々と言い返したのは、由貴とは反対に明るく染まったブラウンの髪をしている藤嶋竜である。竜もまた由貴と同様、決して素行がよいとは言えない制服の着方をしていた。
竜は緩慢な足取りで教室のドアへと向かうと、何も言わず由貴の横を通り過ぎて、教室を出て行ってしまった。由貴は、置いてくなよーと少し拗ねた様な表情をして、竜の後を追いかけた。
「なあ、今日ゲーセン行こうぜ」
「嫌」
「なんで!」
竜に追い付いた由貴は、にっと笑いながら放課後の過ごし方を提案したが、即座に却下され不満げな声をあげた。なんでなんでーと食い下がってまとわりついてくる由貴を竜は片手で払うと、心底面倒くさそうに口を開く。
「今日坂下達にゲーセンに誘われたけど断ったから」
鉢合わせたらめんどくせーだろ。
由貴は竜の言葉に、ああ、坂下ね……と納得したように頷くと、苦笑いをもらした。
坂下というのはB組の坂下梨華のことである。竜に気があるらしく、放課後竜をなんとかして誘いだそうと意欲を燃やしていた。
もし、そんな彼女にゲームセンターで見つかってしまえば、纏わり付かれることは必須であろう。
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