5品目 噂のアイツ

2/8
前へ
/119ページ
次へ
「っあー……腹減った……」  予想通り家に帰っても自分を気遣う人間などおらず、そのまま何も口にせず寝てしまった竜は、目が覚めたと同時に普段の自分なら絶対朝一番に口走らない一言を発した。  ごろり、とベットの上で寝返りをうって携帯を手にとると、小さな画面に表示されている時間を確認する。 「……7時か」  デジタル表示の時間を確認すると、ゆっくりとした動作で起き上がりベッドの端に座って、好き放題にはねている髪を掻き回した。足に力を入れて立ち上がる。制服を着たまま寝てしまったため、皺だらけになったカッターシャツを見下ろして一つ溜息をついた。 「……風呂だけでも入っとくか」  財布と筆箱、眼鏡ケースに携帯という必要最低限のものだけ入った鞄と着替えを手にとると、部屋を出る。  廊下に出ると聞こえてくる下の階の声や物音を聞きながら、ゆっくりとした動作で階段を降りて風呂場に向かった。下を向いて歩いていた竜の視界に風呂場のドアの前に立っている人物の足先が入ってきた。  視線を上にあげるとそこには、竜を睨み付けている女、姉の(めぐみ)が立っていた。 「おはよう、竜」 「おはよ……なに? 邪魔なんだけど 」 自分の前から退こうとしない恵に竜は眉を顰める。恵美は竜を鋭い目で睨んだまま一歩近付いた。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8110人が本棚に入れています
本棚に追加