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「参っちゃうよねー。朝っぱらからそんな話し聞きたくねえっつーのに山ちゃん話し始めるし、クラスの奴らは騒ぎ立てるしさ」
由貴は今朝のクラスの騒ぎ様を思い出し、ふう、とため息をついた。
山ちゃんと由貴が親しげに呼ぶ相手は、由貴のクラス、2-Aの担任山本陽二である。由貴は天井から視線を戻すと、椅子を引いて体ごと竜へ向けた。
「クラスメイトが殺されたってのにやけに突き放した言い方すんのな」
「んー。だって実感わかねーし。気の毒だなとは思うけどさ。俺、その子とほっとんど話したことないしなー……それに見つかった場所ラブホらしいじゃん? 大方喧嘩でもして勢いあまって! ってオチじゃね?」
ラブホで死体発見とかなんかドラマみたいだよなー、と由貴は他人事のように関心の無さそうに足を揺らしながら呟く。死んでしまったのは同じクラスの女子生徒だが、由貴はその女子生徒がどんな顔をしていたのかぼんやりとしか思い出せない。竜はそんな由貴から視線を外す。
「……まぁ、俺らには関係ねえことだし。どーでもいいけどな」
「……だよなー」
一瞬間が空いたが、由貴は竜の言葉にすぐに笑って頷くと、ヒョイと軽やかに机から飛び降り、床に置いていた鞄を肩にかけ直した。
「つか、早くジャンゴ行こうぜ! 俺腹減って死にそう」
「昼メシあんだけ食っといてよく言うな」
すでに教室のドアのところまで駆けていった由貴をやれやれと呆れたように見ながら、竜は自分の机の上から鞄を持ち上げた。
空は雨雲が覆い、誰もいなくなった教室は夕日に照らされることなく、薄暗い闇が支配していた。
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