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「私…本当に今から死者になるのね」
「怖いか?」
「ううん、大丈夫…」
しかしそう言って俺の胸元に顔を埋める聖は少し震えていた。
「死者になってもお前は変わらないさ…痛みもないから安心しろ」
「うん……」
顔を上げた聖に再度契約を交わして良いか確認した後、俺は思い切り左の腕を爪で引っ掻いた。
深く刺さった爪は肉を抉り、真っ赤な血が吹き出した。
思えば聖の前で俺の血を見せるなど初めての事だった。
「…真っ赤……」
「ああ」
赤黒い人間の血液とは少し異なった朱に近い赤。
どれだけの量が蓄積されようと、人間のように黒っぽくなる事などない特殊な死者の血液を聖へと差し出す。
死者になるためには死者の血液を体内に取り込まなければならない。
「どれくらい…飲めばいいの?」
「多ければ多い程俺の力を多く含む」
「わかった……」
聖は恐る恐る俺の左腕へと舌を這わせた。
ビリビリとした痛みが腕に広がる。
傷を作る事すらもう何百年もなかった事だったからな……
「……甘い」
そんな俺を余所に聖は意外そうに目を見開いた。
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