魔界

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「あー、お腹いっぱい」 「よく食うんだな……」 大盛2杯の白米を全て胃の中に放り込んだ聖に、目を見開きながら、呟いた。 「腹が減っては戦はできぬって言うじゃない」 「どこに戦しに行くつもりなんだか」 思わず、ぷっと吹き出してしまう。 「だって、知らない所に行くのよ?いざという時のために、体力は必要不可欠ってね」 右腕にぐっと力を入れ、力瘤をつくってみせる。 「それはそれは、逞しい事で」 笑いながら、ひょいっと聖を片手で持ち上げた。 「ひゃぁ」 「華奢な姫には何もできんな」 バカにしたように鼻で笑う癒羅。 「なによぅ」 そんな癒羅の態度に、むうと頬を膨らめた。 「お前は、おとなしく俺に守られていればいいんだ」 今度は柔らかい笑顔でそう言う。 「…………………///」 顔を真っ赤にして、癒羅の腕にしがみ付く。 いつまでたっても慣れない聖に、ついつい笑みがこぼれた。 聖を抱えたまま、既に荷物を置いてある玄関に向かい、そっと床に降ろす。 とんっと地に足が付いた瞬間、「あら、もう食べおわったの?」と声が聞こえた。 振り向くと、有菜が洗濯物を干し終わり、2階から降りて来た所だった。 “見られた!!!!???”咄嗟の事に、目を見開く。 「ふふ。何て顔してるのよ。急に声かけたから驚いたのね?」 「あ…う、うん。そうだよー!!どっから声がしたのかと思ったじゃない」 普段と変わらない様子の母に、ホッとしながらも、苦し紛れな対応をしてしまう。 「?変な子ね」 子首を傾げながら、目をぱちくりさせると、「気を付けていってらっしゃい」と微笑んだ。 「うん。ありがとう、お母さん。行ってきます」 急いで靴を履くと、逃げるように家を出た。 ―――パタン 小さくドアが閉まる音がした。 「……………………」 そんなドアを見つめ、有菜は少し浮かない顔をするのだった。
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