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―どうして人間は、“信じる事”を忘れてしまったのだろうか。―
ここ、日本の都市も廃墟の様に 暗く沈んだ。
身なりは何ら今までとかわらず、個々の性格が出ているのだろう、赤や青の服が街を行き来している。
ただ違うのは、皆 目が死んでいる事。他人を見ればいさかいが起こる。
だから静かに、自分の目的を果たすだけの一日。
時に、目を合わせれば殺人が起きる程に荒れ、街に座り込んでいる人は、大半が命を落としていると思われる。
『なんだ、ここは…我々が知っている地獄よりも、野蛮だな…』
ビルの上には獅子が一頭。まるで、神社に奉ってある“狛犬ーコマイヌー”の様な…。真っ白い透き通った体で足元には雲をまとっている。白く燃えるタテガミは、この世の物とは思えない。
…そう、この世の物では無いのだ。
『何百年も、眠っていた…我々は“妖ーアヤカシー”と呼ばれ嫌われた時代、尊まれた時代もあった…なぁ“烏天狗”よ』
薄黒く淀んだ空をバックに、大きな獅子は 意味あり気な笑みを浮かべ振り返った。
そこには 黒い羽根を広げた長身の男が一人。
高い鼻に、赤黒い扇子を腰に。天狗は腕を組んで獅子を見つめていた。
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