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少しの間と、張りつめた空気を置いて 獅子は天狗から目を離した。
『…あぁ。早く解いてくれるかの?天狗よ。皆が待っておる…』
そう言うと 獅子は黙り前を見据えた。
一息ついて、天狗は天を仰いだ。淀んだ空には何処へ行く当てもない、黒い雲が流れている。
天狗は一抹の不安を抱えたまま、言の葉を唱えた。紅く輝く閃光と共に、獅子は満面の笑みで狂った様に笑った。
『“我命を持って、天の導きよ応えたまえ。巽乾-ソンケン-併せの中間よりて、彼の門-カノモン-を開け放ちたまえ。
“印・在天金輪示現・艮坤(イン・ザイテンコンリンジゲン・コンコン)!”』
放たれた妖しは、坤-ヒツジサル-(南西・裏鬼門)の方向から、艮-ウシトラ-(北東・鬼門)の方向へ行進を行った。
何とも言えない、気持ち悪い姿に、息遣い。
真っ赤な光は、廃墟を染めた。人々は禍々しい物共の行列に、騒ぎ驚き、我先に逃げるもの 盛んに戦いを挑み返り討ちに合うもの、ただ手を併せ時間の過ぎる事を祈るものと、様々な表情を見せた。
…そして、妖しは人間界に足を踏み入れたのである。
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