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ただ一人、天狗はその光景を遠くの木の上から眺めていた。天狗の哀しく不安気な目には赤い光は痛いくらい眩しかった。
「私は……間違っていたのだろうか…」
『天狗さん…』
天狗は声のする方を見上げた。青く透き通った衣。長い髪の天女の姿をした美しい女性。
「“雲渡り”か…」
『万物の女神として、私も見届けていきます。木々が人間が、動物達が…そして空が怯えています。
千里眼を持つ貴方には、見えますか?この現実が…』
哀しそうな、しかし 強い瞳が天狗を見た。
「…私は…この時が来る事はわかっていた。ただ今の人間を見るのは辛い…だから封印を解いた。この冷めきった世界を変えて行きたい。見届けてみたいのだ…」
『えぇ…私達は“賭け”に出たのです。でしょう?天狗さん。
妖と共存して、冷めきった人間が昔の様な温かい心を取り戻すのか。妖達が世界を飲み込み 地獄の様に堕ちて行くのか…紙一重。獅子頭は何を考えているか分からないけど、見届けていきましょう…』
「…あぁ」
そして妖共は人間へと擬態し、世界へ溶けて行った。良いも悪いも…この時から世界が動き出した。
そして、このお話は始まる。
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