ザクロとカササギ

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「がら」と玄関を開ける音がする。 「ただいま帰りました。」 「お帰りなさい、帰って来てすぐで悪いけど買い物に付き合ってもらえないかしら。」 「わかりました、お母様。荷物を置いてすぐに行きます。」 僕は部屋に行く前に姉さんに会いに行く。 「姉さん、ただいま。具合はどうだい?」 「お帰りなさい。涼しくなってきて、とてもすごしやすいわ。 ねえ、壁の絵を見て、季節が変わるからってお母様が絵を変えたの。」 その絵には、ザクロとカササギが描かれていた。 とても美しく繊細で儚い絵だった。 「綺麗な絵だね。赤いザクロに惹かれてカササギが来てるのかな。」 「そうね、でも、カササギに惹かれるためにザクロが赤く染まっているのかもね。」 姉さんは儚い笑みで見つめている。 「ザクロってどんな味がするのでしょうね。」 「食べたことないけど、味はきっと…赤いよ…」 「私も食べたことないけど、きっとそうね。」 「今からお母様と買い物に行ってくるから、探してみるよ。」 「ありがとう、楽しみにしてるわ。」 僕はこの時、姉さんがザクロを食べれないことに気付いていたのかもしれない。 「すみません、ここにザクロは置いてないですか?」 「ごめんね、ここにはないわ。主人が帰ってきたら聞いてみるけど。」 二人の子供をあやしながら八百屋の奥さんが言う。 僕はその兄弟を見ながら、僕たち姉弟とはまったく別の生き物に見えてしまう。 その後、外に出るたびにザクロを探した。 けれど、見つかることなく、季節が白の世界へと変わっていった。 「がら」と玄関を開ける。 「ただいま帰りました。」 「・・・」 家にいるはずの母から返事が帰ってこなかった。 いつものように、荷物を置く前に姉さんの部屋によった。 静かに座る母がいた。 泣いていた。 話すことも、起き上がることも出来ない姉の前で。 「いってしまうには急過ぎる子でした。 あなたもお別れを言ってあげなさい。」 僕は動くことの出来なくなった姉を抱きしめ、ゆっくりと唇を重ねた。 柘榴をついばむ鵲のように… …その味はとても…赤く…
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