第一章

3/6
前へ
/50ページ
次へ
ローズは父親に手を引かれながら,森の中へ入っていった。 日も暮れ,薄暗くなってきたが,父親といる安心感でローズは少しも怖くなかった。 二人は道のないところへ入っていった。 更に奧に奧にと入ったところで父親は足を止め,ローズに言った。 「ローズ,父さんは薪を拾いに行ってくるから,おまえはここでじっとしているんだよ。」 「お父さん,わたしもいっしょに拾いに行く!」 ローズは父親の手をはなさずに言った。 父親は首を振って言った。 「二人で薪を拾っていたら,いつの間にかローズが父さんとはぐれたら困るからね。父さんは森をよく知っているから,ローズがこの場所で動かずにいれば,必ず戻ってくるよ。だからじっと待っていなさい。」 そう言って,父親はローズをそばにあった倒木の上に座らせ,ローズの頭を優しくなでた。 「うん…。じゃあ待ってる。」 親を困らせることもないローズは大人しく待つことにした。 父親はローズをじっと見つめて微笑んだ。 そしてローズを抱き締めた。 いつもより強く。 そしてもう一度じっと見つめてから, 「すぐに戻ってくるよ。」 と言い残し,薪を取りに離れて行った。 ローズは小さくなっていく父親の背中をじっと見つめていた。 途中,父親が振り返ったとき,いつもの笑顔ではなく,悲しい表情をしていた気がしたが,薄暗い中だったのではっきりとはわからなかった。 一人になると薄暗い森が不気味に感じる。 ローズは膝を抱え込み,ぎゅっと小さくなり,目をつぶった。 こうすると少し安心する気がする。 お父さんはすぐに戻ってくると言った。 ローズは今か今かと父親の帰りを待った。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加