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ローズは父親に手を引かれながら,森の中へ入っていった。
日も暮れ,薄暗くなってきたが,父親といる安心感でローズは少しも怖くなかった。
二人は道のないところへ入っていった。
更に奧に奧にと入ったところで父親は足を止め,ローズに言った。
「ローズ,父さんは薪を拾いに行ってくるから,おまえはここでじっとしているんだよ。」
「お父さん,わたしもいっしょに拾いに行く!」
ローズは父親の手をはなさずに言った。
父親は首を振って言った。
「二人で薪を拾っていたら,いつの間にかローズが父さんとはぐれたら困るからね。父さんは森をよく知っているから,ローズがこの場所で動かずにいれば,必ず戻ってくるよ。だからじっと待っていなさい。」
そう言って,父親はローズをそばにあった倒木の上に座らせ,ローズの頭を優しくなでた。
「うん…。じゃあ待ってる。」
親を困らせることもないローズは大人しく待つことにした。
父親はローズをじっと見つめて微笑んだ。
そしてローズを抱き締めた。
いつもより強く。
そしてもう一度じっと見つめてから,
「すぐに戻ってくるよ。」
と言い残し,薪を取りに離れて行った。
ローズは小さくなっていく父親の背中をじっと見つめていた。
途中,父親が振り返ったとき,いつもの笑顔ではなく,悲しい表情をしていた気がしたが,薄暗い中だったのではっきりとはわからなかった。
一人になると薄暗い森が不気味に感じる。
ローズは膝を抱え込み,ぎゅっと小さくなり,目をつぶった。
こうすると少し安心する気がする。
お父さんはすぐに戻ってくると言った。
ローズは今か今かと父親の帰りを待った。
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