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アタシは望まれて産まれた子供ではなかった。
アタシが産まれたばっかりに結婚して家庭に入らざるを得なかった母親は何時も呪文を唱える様にそう言い聞かせたものだ。
「あんたさえ産まれてこなければ…」
†††
小学校の半ばに、父の会社が倒産。
父はアタシ達を棄てて失踪した。
当時、家計の為に夜働いてた母親とアタシと弟は、夜逃げせざるを得なかった。
知らない土地…
知らない方言…
馴染めない味付け…
そしてよそ者を嫌う閉鎖的な社会。
アタシは転校して、すぐに虐められっ子になった。
家に帰っても、打ち明ける事すら出来ない。
少し知能の発達が遅れ気味の弟に暴力をふるう母親から、弟を守って、殴られ、蹴られ……
学校でアタシを虐める相手を殴ったら、アタシが「悪者」扱い。
母親が学校まで呼ばれて来て、終始平謝りだった。
帰った後には息が出来なくなる位殴られて。
学校にも、家にも、アタシの居場所なんて何処にもなかった。
†††
無抵抗なアタシに虐めが容赦なく行われだしてから、アタシは学校に行く振りをして、繁華街をブラブラして過ごす事が多くなった。
カラオケ…
プリクラ…
ゲセン…
どれもお金がなきゃ遠くから見つめてるだけの物。
お小遣いを貰えない中学生のアタシには縁のない物だった。
†††
不意に後ろから声をかけられた。
補導かと思って一瞬焦ったが、違った。
「君…今、暇?」
ナンパだった。
「暇だよ?どして?」
「じゃあ俺と遊ばね?」
「ええ~?どうせエッチさせてぇとかちゃうのん?」
「いや、メッチャ可愛いからさっきから見てたんだけど…」
「立派なナンパやん!」
「いや…ゲームしない?」
「奢りならなぁ…」
その日はそいつ、佐伯佳祐とゲセンで遊んで帰った。
†††
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