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意識が海底から引き揚げられるような感覚に襲われながら、彼は目を覚ました。
……朝か。
まだ意識がハッキリしていないものの、器用に腕を枕元に伸ばして時計を掴む。
現在時刻は8時半。
「…今日は土曜だし、もう少し寝ていたいな」
そう呟きながらもう一度ベットに潜り込もうとする。
しかしそれを遮ったのは、どこからか立ち上る美味しそうな香りと、ドアをノックする音、そしてそれと同時に聞こえた少女の声だった。
「光志郎兄さん
朝ご飯、作っておきましたから」
“光志郎兄さん”と呼ばれた彼は
お、おぅ…
と応える。
彼の名は、雨宮 光志郎という。
父親はおらず、母親は海外に出張している為、実家に居ながらにして独り暮らしの状態を続けていた。
そしてこの少女は如月 美波。
光志郎の隣人なのだが、彼の面倒をみて欲しいと、光志郎の母、幾子から合い鍵を貰っていたりする。
どうやら面倒見の良い彼女は、その申し出を拒否するどころか、今朝もこうして朝食をこしらえたという訳だ。
「それじゃあ、私はこれから部活ですので」
「美波、いつもすまないな。わざわざ朝食まで支度してもらって」
そして光志郎は、
別に俺一人でも
と、付け加えようと
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