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 ちょっとした雨でも、ずっとその中にいればいずれずぶ濡れになる。 私はその日、雨の中を傘をさすのも忘れて家に帰った。頬で涙と雨が混じった。  自分が今、泣いているのかどうかさえわからなくなった。 ドアを開けても、迎えてくれたのは湿った生ぬるい空気だけだった。私は仕方なく、すっかり水気を含んで重たくなった衣服を洗濯機に放り込み、着古したジャージに着替えた。 つい3ヶ月前まで、空っぽだったこの部屋は、もう何年も前から住んでいたかのように、私なりに散らかされている。  私には私の散らかし方がある。部屋の隅々まで、まんべんなく散らかす。床が見えると極端に寂しくなる。何もない空間を作りたくない。机の上だって、大学の資料や雑誌の切り抜きが広げられている。  窓の外から入る蛍光灯の光を頼りに、私はリモコンを探り、TVの電源をつけた。部屋の隅がほんのりと明るくなる。TVの光がフローリングに照り返すことはなく、床に広がった洗濯物が見えただけだった。  実家を出てから、帰ってきた私を迎えてくれるのは、ブラウン管の中で笑う芸能人か、無表情なニュースキャスターしかいなくなった。  でも、彼らはずぶ濡れになった私を見てタオルを差し出してはくれないし、私が電源を入れるまでは何も話してくれない。  カレンダーを見る。今月は、実家に帰る予定はない。携帯電話を取り、実家の電話番号を見たが、大して話すことはないことを思い出した。  開いたままの携帯電話を、半ば投げるようにしてソファーに置く。今日の出来事を全部吐き出すように、大きなため息が出た。  シャワーでも浴びよう。いや、今日は久しぶりにバスタブに湯を張ってゆっくりしようと蛇口をひねった。  湯加減を確認した後、溜まっていく湯をぼうっと見る。  スッキリしない友人関係、新鮮味が褪せていく毎日。一人で、みんなで、安定しては不安定になる。 これが五月病か。  妙に納得した。ふっと笑い泣きの顔になったが、涙は出なかった。
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