◆明楽◆

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この女は…。 額に青筋がたっているのがわかる。 ヒクヒクと口元が動くが、言いたい言葉が出てこない。 「…おい」 やっと出てきた一言は、それだけだった。 「なんだよ」 そいつは俺の方なんか見ずに返す。 人と話すときは目を見ろって教わらなかったのか? まぁ、いまに始まったことじゃあないが。 …じゃなくて! 「何勝手に人のバイクにまたがってんだよ!しかもちゃっかり後ろ!」 そういうと、そいつはしれっとして答えた。 「だって、電車だと遅刻する」 こ い つ は …! いつもいつも俺を大学までの“足”にしやがって…! 「おまえが勝手に寝坊したんだろ!」 「違う。二度寝」 いままでの無表情からうって変わってニッコリと笑い、俺に向かってピースしてきた。 笑ってりゃあ可愛いのに…って俺はなんてことを考えてんだ! 「なにやってんだ、遅れる。はやくしろよ」 ――っっ!偉そうに! 「あぁもう!おまえはぁ!」 俺は諦めてバイクに乗り、さっさと走らせた。 ふと後ろから声が。 「『おまえ』じゃない。明楽だ。あ・き・ら」 「…知ってる!」 それだけ答えた。 そう、こいつの名前は明楽。 今の俺の――不服だが産まれた日にち順では――姉だ。
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