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この女は…。
額に青筋がたっているのがわかる。
ヒクヒクと口元が動くが、言いたい言葉が出てこない。
「…おい」
やっと出てきた一言は、それだけだった。
「なんだよ」
そいつは俺の方なんか見ずに返す。
人と話すときは目を見ろって教わらなかったのか?
まぁ、いまに始まったことじゃあないが。
…じゃなくて!
「何勝手に人のバイクにまたがってんだよ!しかもちゃっかり後ろ!」
そういうと、そいつはしれっとして答えた。
「だって、電車だと遅刻する」
こ い つ は …!
いつもいつも俺を大学までの“足”にしやがって…!
「おまえが勝手に寝坊したんだろ!」
「違う。二度寝」
いままでの無表情からうって変わってニッコリと笑い、俺に向かってピースしてきた。
笑ってりゃあ可愛いのに…って俺はなんてことを考えてんだ!
「なにやってんだ、遅れる。はやくしろよ」
――っっ!偉そうに!
「あぁもう!おまえはぁ!」
俺は諦めてバイクに乗り、さっさと走らせた。
ふと後ろから声が。
「『おまえ』じゃない。明楽だ。あ・き・ら」
「…知ってる!」
それだけ答えた。
そう、こいつの名前は明楽。
今の俺の――不服だが産まれた日にち順では――姉だ。
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