第一章 出会いと出会いと……出会い?

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「ぎゃあっ!」  途中で階段を踏み外し転げ落ちるというお約束を見事にやってのけ、彼は再びリビングへとたどり着いた。そして焼けたパンの香ばしい匂いを感じながらの優雅な食事――などをしている余裕もなく玄関へと向かう。 「いってきまーす!」  半ば強引に扉を開け放つと、彼は自転車にまたがり猛スピードで登校を開始した。    息を切らせ自転車を漕ぎ進めるひ弱そうな少年。名を遠野晴彦<とおのはるひこ>という。一見、どこにでもいそうな中学3年生であるが……実際そのままである。とある話の成り行きで小父さんと二人で暮らしている。晴彦と小父さんとの出会いにはちょっとしたエピソードがあるのだが今それを語る時間はない。 「はぁはぁ……」  息を切らせひたすら自転車を漕ぐ晴彦。遅刻は確実だと思われた時間だったが、今日の彼はとにかく早かった。自転車を漕いでいる晴彦にもそれが判るほどだ。彼は力が漲<みなぎ>るとはこのことをいうのだと身をもって実感した。   そして晴彦は、普段20分かかる通学時間を5分に縮めるという偉業を達成したのだった。学校に到着した晴彦は、二段飛ばしで階段を駆け上がり教室に飛び込んだ。
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