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それは中一の秋に起こった。
夏の残り香が僅かに香る教室の隅っこで、僕はその日、どうしてだか理由は忘れてしまったけれど、ひどく落ち込んでいたのだ。
明かりの消えた教室の窓際ではない自分の席に座って。
野球部の練習の声や、吹奏楽部の演奏や、時折、苦しそうに鳴くカラスの声を耳にいれ。
ぼんやりと、黒板という一点を見つめ続けた。
そんな時、クラスメイトの一人が教室に入り込んできたのだけれど。
どうせ、忘れ物でもしたのだろう。
と、僕は深く考えもせず、黒板を見つめるという作業をやめない。
一人でぼんやりと一点を見つめている男子生徒だなんて、相手は多分不審に思うだろうけど。
そんな事気にするものかと思った。
その時の僕は、やっぱり、理由は忘れてしまったのだけれど、それほど深く、落ち込んでいたのだ。
だけど、僕の予想のどこにも落ちていなかった行動を、教室に入ってきた相手はとる。
突然、僕と、黒板との間を遮るように入ってきた人影があった。
あのクラスメイトだった。
短く揃えられた茶色がかった髪。
大きな瞳。
大人しい印象のあるクラスメイト。
昼休みは、いつも、一人でお弁当箱をつついている女の子。
何度か話をした事はあった。
確か、物静かな印象を与える雰囲気とは裏腹に、入っている部活は陸上部だったはずだ。
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