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すき、という言葉の意味が、『好き』だという事にやっと気づいた僕は。
正直、先程まで自分が落ち込んでいた原因の事もすっかり忘れ。
相手の方を見つめた。
未だ、頬を赤く染めたままの彼女は、不安げな顔をしていたけれど、その瞳は、どこか真剣で、何かをやり遂げたような雰囲気を持っていて。
僕は、自分が今、知ってはいけない事を知ってしまった事に気づいた。
それでも、もうどうする事も出来ないという事にも同時に気づいてしまった。
僕は、今まで『好き』という言葉をこんなにも意識した事はなかった。
誰かを、『好き』だと思う気持ちや。
異性を意識する気持ちに、多分、今までは、顔を逸らして生きてきたのだ。
でも、もう、それが許されない事だという事を、僕は知ってしまう。
だって、今、クラスメイトの彼女が言ってきた、好きという言葉が。
『好き』という意味を持っているのだと気づいた、その時。
僕の頭に真っ先に浮かんだのは、今目の前にいる彼女ではなく。
いつも登下校を共にする、あの、幼馴染の女の子だったからだ。
「そっか」
僕の口からは、それしか出てこなかった。
あの日、彼女が僕の事を嫌いじゃないと言った時に、呟いた言葉と同じだと僕は思った。
それでも、あの日のような、どこか清清しい気持ちなんてどこにもなくて。
ただ、その言葉は、僕に苦しさと寂しさだけを与えて去っていった。
僕は結局、クラスメイトの告白の返事を返さなかった。
寂しそうに去っていくあの子の後姿を見送る事もせず、また、黒板を眺める作業へと戻った。
緑色のそれは、ところどころ消しきれなかったチョークの跡で汚れていて、とてもみすぼらしく、見ていて、楽しいものでもなんでもなかった。
それでも、見つめ続ける事しか僕には出来なかった。
そう、僕は、気づいてしまったのだ。
本当は、僕は幼馴染である彼女の事が好きだったという事に。
そして、彼女に『好き』と伝える勇気が、今の僕には存在しない事に。
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