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「あれ?どうしてそんな暗いところで待ってるの?電気つければ良かったのに」
委員会の集まりから帰ってきた彼女は、そう笑って教室の電気をつけた。
パチパチと小さく音を出して、僕の周りの世界は段々と明るくなっていく。
でも、僕はいつものように笑えなかった。
思いを意識してしまった、たったそれだけの事が、僕の足枷となり、僕の歩くのを無言のまま阻止しようとする。
今まで、なんて事なく毎日見てきた、相手の笑顔が上手く見れない。
相手の前じゃあ、上手く笑えない。
きっと、彼女も僕のその変化に気づいている。
でも、何も言う事は出来ない。
彼女と僕は、ずっと一緒に生きてきて。
これからも、一緒に生きていくものだと思っていたのに。
それが出来ないという事を、僕は知り、泣きたくなった。
『好き』が言えなければ、きっと僕は彼女をいとも容易く手放してしまうのだろう。
彼女の、後姿を簡単に見失ってしまうのだろう。
あの、二文字が言いたい。
言えない。
言えるわけが、ない。
ずっと、幼馴染という位置について二人で歩いてきたのだ。
今更、どうすれば、それを変えられるというのだ。
きっと彼女は、僕の事などただの幼馴染みにしか今は見ていないだろう。
だから、まだ言えない。
この恋心が、例え叶わなくても、それでも別に構わない。
ただ、彼女が僕の隣からいなくなる、それだけは。
それだけは、なんとしてでも避けたかったし。
なんとしてでも、勘弁してほしかった。
だって、
「あ、この前、隣のクラスの高橋さんがね」
「うん」
「何か、同じクラスの杉井さんと口論になったみたいで、原因は確か目玉焼きに何かけるか」
「何それ?そんな事で?」
「うん、笑っちゃうよね。どっちも頑固な性格みたいだから、譲れなかったみたい」
だって、彼女のこの笑顔が隣になきゃ、きっとこの先、生きていけないんだよ、僕は。
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