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好きという二文字を僕は言えずに、今までの人生を生きてきた。
自分は、子供だから、照れてしまって言えないのだ。
大人になったら、きっと言えるようになるに違いない。
そう思いながら過ごしてきた日々の中で。
僕は、それが間違っていたという事を知る。
本当は、大人なんかより、ずっと子供の方が。
自分の気持ちを相手に伝えるには、適している動物だったのだ。
大人になった僕は、あの二文字の本当の意味にも気づかないまま。
ただ、誰かに囲まれているフリをし。
本当はいつだって独りぼっちなのを隠して、毎日、息をしている。
叫べれば良かったのに。
苦しいって、泣きたいって、
本当は、本当は、君の事が『好き』だったんだよ、って。
幼馴染という枠には入りたくなかったんだ。
きっと、僕は。
君の、『恋人』になれる日を夢見ていたんだよ。
『好き』と言えるチャンスを。
僕は、もしかしたら、待っていたのかもしれない。
そんなチャンスなんて、ずっと昔に、通り過ぎてしまっていたなんて事にも気づかずに。
彼女の隣の椅子に座り。
流れる景色を見つめながら、ずっと、ずっと、ずっと。
ずっと、待っていたのに。
誰もいない隣の席に、ぽんと手を置いた。
彼女の感触は、そこにはカケラも残っていなくて、僕はすんと鼻を鳴らす。
すんと鼻を鳴らして、カンカンと叫ぶ踏み切りの音にだけ、身をゆだね。
明日からの人生なんて、明るい未来なんて、考えないように、目を閉じた。
眠りの世界に行きたくもないのに無理矢理入り込んでいった。
夢なんて見なかった。
見る方法すら忘れてしまった。
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