4.再会

6/7
前へ
/30ページ
次へ
「あの…」 ふと、上からかかってきた声に、閉じていた目を開ける。 知らない顔がそこには立っていて、ちょっとだけ躊躇した。 話しかけられたのは僕じゃなかったのか、と辺りを見渡しても。 この車両には、僕と、相手しか乗っていない。 歳は、三十代半ばだろうか。 どこか、僕に雰囲気の似ているその男性は、しばらく、黙り込んでいたが。 不意に、困ったように首を傾げ、ごめんね、と小さな声で呟いた。 「昔、会った事のある人に、何でか君が似ていると思ったんだ。あれから10年もたっているから、記憶も曖昧なのに、どうしてか、君に違いないと思ってしまって」 「はぁ」 気の抜けたような返事しか出来なかった。 妙なおっさんだ。 呆れつつも、僕は相手から目を離せず、ふぅと息をつく。 思い出そうとしても、思い出せるわけないけれど。 どうしてか、僕も。 この人と会ったのは、初めてではない、そんな気がしてならないのだ。 だから、つい、尋ねてしまった。 尋ねたとしても、何かが変わるわけでもないのに。 「あなたの会った事ある人は、どんな人なんですか?」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加