267人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの…」
ふと、上からかかってきた声に、閉じていた目を開ける。
知らない顔がそこには立っていて、ちょっとだけ躊躇した。
話しかけられたのは僕じゃなかったのか、と辺りを見渡しても。
この車両には、僕と、相手しか乗っていない。
歳は、三十代半ばだろうか。
どこか、僕に雰囲気の似ているその男性は、しばらく、黙り込んでいたが。
不意に、困ったように首を傾げ、ごめんね、と小さな声で呟いた。
「昔、会った事のある人に、何でか君が似ていると思ったんだ。あれから10年もたっているから、記憶も曖昧なのに、どうしてか、君に違いないと思ってしまって」
「はぁ」
気の抜けたような返事しか出来なかった。
妙なおっさんだ。
呆れつつも、僕は相手から目を離せず、ふぅと息をつく。
思い出そうとしても、思い出せるわけないけれど。
どうしてか、僕も。
この人と会ったのは、初めてではない、そんな気がしてならないのだ。
だから、つい、尋ねてしまった。
尋ねたとしても、何かが変わるわけでもないのに。
「あなたの会った事ある人は、どんな人なんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!