6.好き

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気づけば走っていた。 がしゃんと背後で僕の自転車が倒れる音を聞いたが、そんなの気にもならなかった。 高校になって、部活もしなくなったから、鍛えられていない足はすぐに悲鳴をあげる。 それでも、構うものかと、僕は走り始めた。 向かう先は、よく分からない。 ただ、自分の足が動くままに、僕は向かう。 彼女と一緒に通った道も、彼女と一緒に行ったコンビニも、僕の家も、彼女の家も通り過ぎ。 自分でもどこに向かうのか、分からないまま。 ただ、ひたすらに。 ただ、ひたすらに、一つの思いを抱え。 好きという二文字を僕は言えずに、今までの人生を生きてきた。 自分は、子供だから、照れてしまって言えないのだ。 大人になったら、きっと言えるようになるに違いない。 そう思いながら過ごしてきた日々の中で。 僕は、それが間違っていたという事を知る。 本当は、大人なんかより、ずっと子供の方が。 自分の気持ちを相手に伝えるには、適している動物だったのだ。 大人になった僕は、あの二文字の本当の意味にも気づかないまま。 ただ、誰かに囲まれているフリをし。 本当はいつだって独りぼっちなのを隠して、毎日、息をしている。 でも、違った。 本当は何もかも間違っていたのだ。 僕は、自分はもう大人だと思っていた。 だけど、違うのだ。 僕は、まだ子供だったのだ。 何も知らない、世界の真実も、来年の天気も、100年前の空の色も知らない。 ちっぽけで、無力で、それでいて無邪気な子供だったのだ。 だから、きっと。 ほんの少しの、勇気を出せば。 ほんの少しだけ、勇気を出せば。 きっと、言えるに違いないはず。 あの、たった二文字を。
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