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気づけば走っていた。
がしゃんと背後で僕の自転車が倒れる音を聞いたが、そんなの気にもならなかった。
高校になって、部活もしなくなったから、鍛えられていない足はすぐに悲鳴をあげる。
それでも、構うものかと、僕は走り始めた。
向かう先は、よく分からない。
ただ、自分の足が動くままに、僕は向かう。
彼女と一緒に通った道も、彼女と一緒に行ったコンビニも、僕の家も、彼女の家も通り過ぎ。
自分でもどこに向かうのか、分からないまま。
ただ、ひたすらに。
ただ、ひたすらに、一つの思いを抱え。
好きという二文字を僕は言えずに、今までの人生を生きてきた。
自分は、子供だから、照れてしまって言えないのだ。
大人になったら、きっと言えるようになるに違いない。
そう思いながら過ごしてきた日々の中で。
僕は、それが間違っていたという事を知る。
本当は、大人なんかより、ずっと子供の方が。
自分の気持ちを相手に伝えるには、適している動物だったのだ。
大人になった僕は、あの二文字の本当の意味にも気づかないまま。
ただ、誰かに囲まれているフリをし。
本当はいつだって独りぼっちなのを隠して、毎日、息をしている。
でも、違った。
本当は何もかも間違っていたのだ。
僕は、自分はもう大人だと思っていた。
だけど、違うのだ。
僕は、まだ子供だったのだ。
何も知らない、世界の真実も、来年の天気も、100年前の空の色も知らない。
ちっぽけで、無力で、それでいて無邪気な子供だったのだ。
だから、きっと。
ほんの少しの、勇気を出せば。
ほんの少しだけ、勇気を出せば。
きっと、言えるに違いないはず。
あの、たった二文字を。
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