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がむしゃらに仕事をしてきた俺は、子供達の間で流行っているものも何一つ知らず。
彼女がくれた最後のチャンスにすらも気づかずに、ベンチで缶コーヒーを飲むしか出来ない。
あの日、馬鹿みたいに前ばかりを見ていた俺は。
大きくなったら、僕はきっと立派な人になる。
駄目な大人には、絶対にならない。
そう、勝手に決め付けてしまっていたけど。
今、俺は、あの日の自分の夢すら叶えられず、こうして駄目な大人へとなってしまっている。
妙に甘くて、苦いコーヒーを口に含む事だけが幸福だと感じる、どうしようもなく、駄目な大人に。
「君達は、」
そこまで考えたら、口は勝手に動いていた。
まだ、幼いこの子達。
あの日、前を見ていた俺と同じように、ただ光だけを信じている子供達。
じゃあ、君達が、君達のまま大人になれるように。
俺のような、駄目な大人にはならないように。
「君達は、お互いが好きかい?」
一瞬だけ驚いたように、首を傾げたけれど。
すぐに、満面の笑みを浮かべ、縦に頷いたこの子達の歩く道に。
どうか、溢れんばかりの幸福がある事を。
どうか。
今の俺は、まだ弱くて。
言葉に出して、この事を伝える事は出来ないけれど。
笑いながら、楽しそうに、手を繋ぎ。
公園を後にしていく、小さな二つの後姿に、こっそりと手を振り、心の中で呟く。
どうか、お幸せに。
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