2.二つの失恋

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小学生の時、僕らは自由だった。 何も怖いものなどないと、そう信じて生きてきた。 僕たちの生きる世の中には、きっと素晴らしい世界が待っていると。 何故だか、そう思い込んできた。 本当は、世界には汚いものも悪いものも、見ていられないものもたくさん存在するというのに。 それでも、幼い僕達は。 今、自分達の目の前に広がっている、輝かしい希望だけが全てだと思い。 お互いの手を、ぎゅっと、握り締めたのだ。 全ては中学一年の時に始まり、全ては中学二年の時に、ちょっとずつ、ずれていく。 ランドセルの必要がなくなったその頃、僕は生まれて初めて着た制服というものにたいそう感激し。 黒いそれを羽織っては、鏡の前で、じっと座っていた。 今、思えば、変わった子供だったと思う。 学生鞄の中に、適当に教科書を詰め込み、いつものように、家を出て行く。 駅で、彼女と待ち合わせをし、一緒に笑いあう。 昨日見た映画が、とか。 この前発売されたCDが、とか。 隣のクラスの篠原さんが、とか。 話す話題は尽きなくて。 毎日が、嬉しくて楽しくて。 真夏の世界に浮かぶ空とか、そんな当たり前のものが綺麗に思えた。
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