2.二つの失恋

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「携帯買ったの」 薄い桃色の小さな箱を僕に見せ付けるように掲げ、彼女は笑う。 他の人が持っているのはよく見るけど、彼女が持っているところを見るのは初めてだったので。 見慣れぬ光景に、僕は少しだけ眩しそうに目を細め、ほぉと小さく息をついた。 「え、いいなぁ。僕も欲しい」 「××君も買ってもらいなよ」 「前言ってみたけど、僕にはまだ早いって。悔しいな、みんな持ってるのに」 親はどうやら、僕を未だに子供扱いしているらしい。 僕としては、小学生から、中学生になる違いというのは、けっこう大きなものなのに。 親はそうは思っていないようだ。 悔しい反面、早く大人になれたらいいのに、なんて、ぼんやりと頭の隅で考えて。 彼女の持っている、その小さな文明の利器を見つめる。 紙やペンを使わなくても、遠くにいる人に手紙を送れるその機械を。 便利だと思う反面、僕は少し寂しく思えた。 だって、僕は彼女のあの独特な丸っこい字が好きなのに。 携帯を使ってしまえば、それを滅多に拝めなくなってしまうのだ。 「でも、凄いよね」 「何が?」 「携帯。今の時代って、人とコミュニケーションをとるのにさえ、お金がかかる時代なんだね」 「そうだね。何でもかんでも、今の人はメールや電話で済ましちゃうもんね」 昔の人は、恋人と話すためにいったい何をしていたのだろう。 電話も、メールもない時代の世界では、誰かと話したい時はいったいどんな手段を使っていたのだろう。 答えは簡単。 会いに行けばいい。 相手のもとへ、この二本の足を使い走れば良いのだ。 でも、今の時代の人は、そんな事する人、滅多にいなくなっちゃったね。 電子空間に手紙を飛ばし、お互い、愛を囁きあってるんだね。 そんな事を考えていたら、やっぱり携帯はいらないかもしれない、なんて思えてきた。 「××君って変わってるよね」 「そうかな?そんな事、ないと思うけど」 「変わってるよ。私は嫌いじゃないけど」 「そっか」 なら、別にいいや。 という、言葉は、僕の口からは出てこなかった。 まだ、出す勇気が出ていなかったのだと思う。 「そっか」 代わりに、もう一度その言葉を呟いた。 彼女は、笑った。 まるで、舞い散る雪のように、綺麗に。 その笑顔が好きだと、僕は思った。
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