紫煙ハ未ダニ九揺ラセル

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伊達が『ミラージュ事件』から ずっと考えていた 涼子の反応。 その考えていた反応の どれとも違う言葉が 涼子から返ってきた。 恨みの言葉でもなく 冷たい言葉でもなく 感謝の言葉が。 その涼子の顔を 伊達九紋は一生… 忘れる事はないだろう。 伊達が恋した女性の 今まで見た一番の 暖かい笑顔は たった一枚の硝子で 隔たれているだけなのに とても遠く とても儚かった。 伊達は たまらなくなった。 思わず 硝子の前の台に 手をついて 立ち上がった。 「涼子さん…っ 僕は…」 言葉が詰まる。 その様子を見て 涼子の瞳から涙が伝う。 「伊達君… 言わなくていいよ…」
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