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それは、どこか見覚えのある原っぱ。
風が躰を包み、走るオレの横を駆け抜ける。
『―――くーん・・・』
小さなオレの躰は、目の前を駆ける同じ程の体躯の少年を追い掛ける。
『早く早くぅー』
靄がかかったようで、顔の判別がつかない。
モノクロの世界で、彼へと伸ばした手は虚しく空を切る。
追い付けない……
『待ってよ、―――くーん!』
………!!
初夏の日差しの中、目を覚ましたオレ。
少しくたびれたカーテンを開くと、より一層多量の光が飛び込んでくる。
眩しすぎる世界に目が慣れるまで、数秒かかった。
ギラつく太陽を睨みつけ、深いため息をつく。
隅の鏡を見やると、豪快な寝癖が。
「あちゃ~~…」
頭を掻き、寝呆けた眼を擦る。
ドンドンドンドンドン
階段を駆け上がる音がし、音の原因はオレの部屋の前で立ち止まる。
「タケぇ!!」
ドアが思いっきり開かれ、兄貴の英嗣の大声が。
「起きろぉ!!」
「起きてますよ……」
力無く返事するが、兄貴は黙って手を挙げている。
外では小鳥の囀りが……と、そんな気持ちの余裕などどっかに吹っ飛んでしまった。
「………?」
兄貴の手の先を辿って見ると、時計。
ドアの上に掛けてある時計を静かに指差している。
なになに?
八時二十一分かぁ……
八時二十一分!?
今日もドタバタな一日が始まる。
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