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「行ってきます!!」
誰も居ない玄関に言い、自転車に跨がる。
乗り慣れた自転車は、オレを無言で迎える。
昔のアニメのように、トーストを食べながら、という程余裕ではない。
腕時計を見ると。
部活開始まで残り二十分と少し。
門を勢い良く飛び出す。
良かった、間に合うぞ。
立ち漕ぎで陸橋の坂を下っていく。
向かい風が心地良い。
しかし、陸橋を下りてすぐの交差点で捕まる。
時間が無いってのに!
急ブレーキをかけ、青を待つ。
休日だということで、多くの車が流れていく。
時間が刻一刻と過ぎていく。
焦っているのか。
歩行者用の信号が点滅を開始すると、突然黒に包まれる。
雲か……?
点滅を終え赤に色を変えた歩行者用信号から視線を進行方向に変えると、視界を覆い尽くす巨大な物体。
それがトラックだと分かったのに、少し時間がかかった。
三、四台のトラックが過ぎると、最後尾には初めて見る車。
リムジン。
ゆっくりと走る純白のそれが十字路を渡りきると、待っていた信号は青に。
テレビでしか見たことの無い車に、オレはつい見惚れてしまっていた。
焦っていた心はその時どこに行ったのか?
ゆっくりとした影が、遠い交差点で曲がって見えなくなるまで見ていると、待っていた信号は元の色の光を灯していた。
しかし、そんなことはもうどうでもいい。
正直言って、そう感じたのも確かだった。
風は暖かく、何かしらの優しさを纏っていた。
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