美しい男

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母の恋人に会った日から、私は不愉快な気分を引きずっている。 始めはカタチのなかった不快感が、だんだんとカタチをつくっていく。 母とその恋人のカタチ。 そして私は不快感を吐き出すべく、裕子とお茶をしている。 裕子はお互い実家が近く幼なじみで、気のおけない友達だ。 「私はおばさんが羨ましいなぁ」 裕子は遠くを見るような目をして言った。 「あ、もちろん、若くてイイ男が彼氏だからじゃないよ!」 私はハハッと笑った。 「いいなぁ。私もそんな風にジョーネツ的に愛されたいや」 裕子はつい最近彼氏が浮気をして、それが原因で別れている。 「でもさ、そんだけ愛されるってことは、おばさんは魅力的なんだねぇ」 私は、母のことをずっと母としてしか考えた事がなかった。 「おばさんはイイ女なんだねぇ。イイ男を落としちゃうようなさ」 …母は女なんだ。 そんな当たり前のことが、私には全然見えてなかった。 「かっこいーお母さんだねぇ」 裕子は笑った。 私は苦笑した。 苦笑するしかなかった。 私は嫉妬していたのだ。 子供を捨てるような人間のクセに、愛されてる母に。 そして、子供を捨てるような人間を愛している男に。 だって私は今でも独りぼっちだ。 私は、私を捨てた母が、私の持っていないものを持っているのが許せなかった。 母が私の母だから。 母が私と同じ女だから。 余計に許せなかった。 そして、母をまだ愛していた自分を許せなかったのだ。
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