1人が本棚に入れています
本棚に追加
母の恋人に会った日から、私は不愉快な気分を引きずっている。
始めはカタチのなかった不快感が、だんだんとカタチをつくっていく。
母とその恋人のカタチ。
そして私は不快感を吐き出すべく、裕子とお茶をしている。
裕子はお互い実家が近く幼なじみで、気のおけない友達だ。
「私はおばさんが羨ましいなぁ」
裕子は遠くを見るような目をして言った。
「あ、もちろん、若くてイイ男が彼氏だからじゃないよ!」
私はハハッと笑った。
「いいなぁ。私もそんな風にジョーネツ的に愛されたいや」
裕子はつい最近彼氏が浮気をして、それが原因で別れている。
「でもさ、そんだけ愛されるってことは、おばさんは魅力的なんだねぇ」
私は、母のことをずっと母としてしか考えた事がなかった。
「おばさんはイイ女なんだねぇ。イイ男を落としちゃうようなさ」
…母は女なんだ。
そんな当たり前のことが、私には全然見えてなかった。
「かっこいーお母さんだねぇ」
裕子は笑った。
私は苦笑した。
苦笑するしかなかった。
私は嫉妬していたのだ。
子供を捨てるような人間のクセに、愛されてる母に。
そして、子供を捨てるような人間を愛している男に。
だって私は今でも独りぼっちだ。
私は、私を捨てた母が、私の持っていないものを持っているのが許せなかった。
母が私の母だから。
母が私と同じ女だから。
余計に許せなかった。
そして、母をまだ愛していた自分を許せなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!