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裕子とお茶した翌日の夜、母の恋人から電話がかかってきた。
「こんばんは」
ケータイから彼の声がこぼれる。
「…こんばんは」
私は、母と会うことを承諾したことをすっかり後悔していた。
「あなたに会ったと話したら叱られてしまいました」
電話越しに苦笑しているのを感じる。
「でも、あなたのお陰で、藤子さんが検査を受けてくれることになりました」
「え、どういうことですか?」
私は思わず尋ねた。
「あなたに迷惑をかけることはしたくないから、と。僕の言ったことは気にせず、自分の生活を大切にして下さい、とのことです」
ホッとして体から力が抜けた。
母に会わなくてすむ。
だけど、心がスゥっと冷えていく。
母は、私に、会いたくはないんだ…。
「こないだ言わなかったんですけど、あなたのコーヒーの飲み方、藤子さんとソックリなんです。
何だかそれがすごく嬉しくて、藤子さんに話したんですよ。
そしたら藤子さんが検査受けるって言ってくれたんです」
私は遠い昔、母と二人でラーメンを食べに行ったことを思い出した。
私たちはひどい猫舌で、滅多にラーメンなんか食べに行かないのに、その日は無償にラーメンが食べたかったのだ。
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