ジャンクガール

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私は、言ってしまった。 気付いた時には敦賀がそばにいた。 私は言いたくない言葉を発したばかりか、一番聞いて欲しくない人にそれを聞かれてしまったんだ。 敦賀はただ静かに、席に着いた。 「ホームルームするぞー」 先生のしゃがれた声が、遠い国の言葉みたいに、響いた。 私の複雑な気持ちが膨らんでいく中、ホームルームは終わった。 みんなが夏休みに向けて楽しそうに席を立つ。 ガタン、と音を立てて立ち上がる敦賀。 「相原」 敦賀が私を呼ぶ声が頭の上から聞こえる。 「嫌なら嫌っていえよ」 沈黙。 「…悪かったな」 私は敦賀の顔を見ることができなかった。 何も言えない役立たずな舌が口の中で急激に乾いていく。 そして、私は、失ってしまった。 夏休みを終えて、今は二学期、目の前には敦賀。 沈黙。 となりの教室からかすかに聞こえる発音の悪い英語。 「…っ敦賀、授業は?」 「サボリ」 敦賀は教室のドアを閉めて、どんどん私に近づいてくる。 「お前もサボリ?」 「うん。まぁ…」 ずっと、敦賀に聞かれた言葉を取り消したかった。 迷惑なんかじゃなかった、って。 むしろ、私は。 「相原」 「な、なに?」 また、沈黙。 いつの間にか私の正面に、すぐ近くに、敦賀がいる。 私の目線の先には敦賀の肩。 敦賀は手が大きいだけじゃなくて、背も高かったんだね。 「…俺さ」 実を言うと夏休み中、敦賀のことばっか考えてた。 でも、私は敦賀のこと、全然知らないんだよね。 「休みの前、感じ悪かっただろ」 「…そんなことないよ」 でもね、敦賀。 私はね、少なくともクラスの中の誰より、あんたの手がきれいだってこと知ってるんだ。 私よりあんたの手を見てるヤツなんて、いないよ。 「あのね、敦賀…」 「…何?」 それでね、私は、手だけじゃなくて、もっと。 もっとあんたを近くで見てみたいんだ。 「席が離れて、消しゴム貸せなくて残念だと思ってるんだ」 「……」 ドクドク血液が私の中で暴れてる。 耳に響く鼓動がうるさい。 体が内側から爆発しそうだ。 でも言わなきゃ。 私の気持ちが壊れてしまう。 「…嫌なんかじゃなかったよ…」
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