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「確か…畑中さん…だったかな?」
少し自信がなさそうに呟くと、それが聞こえたかのように畑中が振り返って詩織と目が合う。畑中は帽子を軽く上げて挨拶をすると、指導していた下級生達に二言三言告げてグラウンドから出てくると詩織に話し掛ける。
「久しぶり。どうしたの?こんなところで」
詩織はうろ覚えだったのに対して、畑中はしっかり詩織のことを覚えていた。そしてふと疑問に思って声をかけて来たのである。
それもそのはず、この辺りには体育会系の部活のグラウンドやクラブハウスは点在しているが、文化系の詩織が普段立ち寄る場所は近くにはなかったからである。
「いや…特に理由があるわけじゃないんですけど…なんとなく、ですね」
詩織がそう話すと畑中はやや大袈裟に息をつくと笑顔で話す。
「そっか、よかった。道にでも迷ったのかと思ったよ」
「もう3年目なのに迷ったりしませんよ」
畑中の言葉にプッと吹き出しながら詩織が答えると、畑中も「そうだよね」と笑いながら頬をかいて照れ隠しをする。
「せんぱ~い」
「あっやばっ!まぁもしよかったら見ていって、今年こそ神宮に行くからさ」
グラウンドの後輩からの声に急かされて、慌てて詩織に声をかけるとまたグラウンドに戻っていく。
そんな姿を見送り、しばらく練習を見学してからまたあても無く歩き出す。
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