New days

12/15
前へ
/114ページ
次へ
 俺は静かに目を瞑る。 すると、先の和泉のセリフが脳裏で再生された。何度も繰り返し再生する。  心が躍るようだ。  女の子が自分のために弁当を作ってくれるということが、これほど嬉しいことだと、俺は知らなかった。  いつもトカゲのことを馬鹿にしていたけど、これは謝らないとな。  うんうん、と心の中で何度も頷く。  それからようやく、意識を現実に引き戻した。  全身から流れる冷や汗は、止まる気配を見せない。  背中に突き刺さる視線の圧力が、先ほどよりも増していた。  やはり現実逃避しても問題は解決しなかった。  はあ。  俺は心の中で一つため息を吐いた。  まだ誰も襲いかかっては来ないのが、せめてもの救いだ。  こういう時だけは、忌まわしい中学時代の悪名に感謝する。 「この、たらし野郎がっ!」  いや一人いた、襲いかかって来る奴が。 「うぜえっ!」  パターンと化しつつあることにウンザリしながら、俺はトカゲを蹴り飛ばす。 「――ふぶっ!?」  叫び声を上げて、トカゲは床に墜落した。 「駄目なの?」  そんな騒動の中、不意に背後から和泉が声をかけて来た。  やべっ、忘れてた。  慌てて振り返った俺を、和泉の不安そうな顔が出迎える。目から涙がこぼれ落ちそうだ。  ……その顔は反則だろ。 「いや、もちろん一緒するよ」  俺の返事を聞いて、和泉の顔がぱあっ、と輝いた。  ……その顔も反則。  俺こんな恥ずかしい奴だったか?  妬みの視線を背中に浴びながら、俺は和泉に腕を引かれて教室を後にした。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7167人が本棚に入れています
本棚に追加