New days

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 俺は静かに目を瞑る。 すると、先の和泉のセリフが脳裏で再生された。何度も繰り返し再生する。  心が躍るようだ。  女の子が自分のために弁当を作ってくれるということが、これほど嬉しいことだと、俺は知らなかった。  いつもトカゲのことを馬鹿にしていたけど、これは謝らないとな。  うんうん、と心の中で何度も頷く。  それからようやく、意識を現実に引き戻した。  全身から流れる冷や汗は、止まる気配を見せない。  背中に突き刺さる視線の圧力が、先ほどよりも増していた。  やはり現実逃避しても問題は解決しなかった。  はあ。  俺は心の中で一つため息を吐いた。  まだ誰も襲いかかっては来ないのが、せめてもの救いだ。  こういう時だけは、忌まわしい中学時代の悪名に感謝する。 「この、たらし野郎がっ!」  いや一人いた、襲いかかって来る奴が。 「うぜえっ!」  パターンと化しつつあることにウンザリしながら、俺はトカゲを蹴り飛ばす。 「――ふぶっ!?」  叫び声を上げて、トカゲは床に墜落した。 「駄目なの?」  そんな騒動の中、不意に背後から和泉が声をかけて来た。  やべっ、忘れてた。  慌てて振り返った俺を、和泉の不安そうな顔が出迎える。目から涙がこぼれ落ちそうだ。  ……その顔は反則だろ。 「いや、もちろん一緒するよ」  俺の返事を聞いて、和泉の顔がぱあっ、と輝いた。  ……その顔も反則。  俺こんな恥ずかしい奴だったか?  妬みの視線を背中に浴びながら、俺は和泉に腕を引かれて教室を後にした。
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