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「うん、凄く上手い!」
弁当の中身を口に入れ、俺は素直な感想を口にする。
「本当!? 良かった~」
和泉はそれを聞いて、緊張で強張っていた表情を若干緩めた。
俺は弁当の中身を、次々と口の中に放り込んでいく。
どの料理も文句なしに上手い。これを不味いと言う人間は、味覚が狂っているに違いない、というぐらいに完璧だ。
それでもやはり、緊張はするものなのだろうか? 乙女心は理解出来ないな。
俺たちがいるのは、南側校舎の屋上。俺たちの始まりの場所。
と言っても、始まりは昨日だが。
ふと和泉の弁当に目をやると、全く減っていないのに気付いた。
「どうした? 食わないのか?」
俺は彼女に早く食べるよう促す。
もたもたしてたら昼休みが終わっちまうからな。
「うん、分かってるよ」
しかし、そう言いつつも、和泉は弁当に箸を伸ばさない。
和泉の視線は、弁当を食べる俺にずっと向けられたままだった。
あんまり見ていられると、こそばゆいんだが……。
この状況に絶えられず、俺は箸を止めて和泉に視線を向けた。
「どうした?」
言いたいことがあるなら言ってくれ。これ以上見続けられるのは勘弁だ。
尋ねられた和泉は、恥ずかしそうに顔を少し赤らめた。
「えと、あのね……。大したことじゃないんだけどね」
表情から、口調から、彼女の嬉しさが溢れ出ていた。
「好きな人に自分の作ったお弁当を食べて貰えるなんて、夢みたいだなって……」
その心からの思いに、俺は軽い罪悪感を覚える。
少し沈黙した後、俺は口を開いた。
「なあ、なんで俺のことが好きなんだ?」
昨日から考え続けている疑問を、俺は遂に彼女にぶつけていた。
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