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「……え?」
和泉が小さく驚きの声を漏らした。
やがて、寂しそうな表情を浮かべて俯いてしまう。
「やっぱり、覚えてなかったんだ……」
「どういうこと?」
彼女のセリフが理解出来ず、俺は思わず聞き返していた。
二人の間に、しばしの沈黙が訪れる。
先に口を開いたのは和泉だった。
「中学二年生の時、陽平くんに助けられたことがあるの」
中二の時?
和泉を助けた?
俺は必死に記憶を漁るが、思い出すことは出来なかった。
そんな俺の混乱をよそに、和泉は話の続きを語り始める。
「二つ下の弟がね、三年生に絡まれてて、助けに行った私も捕まえられちゃったの」
弟?
あー、朧気に記憶にあるような……。
確かにそんな二人組を助けた覚えがあった。しかし、詳しいことを思い出そうとするとサッパリだ。
「それで、そんな絶対絶命のピンチを陽平くんに助けられたの。その時の姿が本当に格好良かったから……」
顔を上げた和泉に、先ほどの寂しそうな表情はなかった。
代わりに当時のことを思い出そうとするかのように、目を閉じている。
胸がチクリと痛んだ。
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