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学校の授業が終わり、俺は帰路を走っていた。
傘も持っていないのに、午後から急に雨が降り出したのだ。一時のものではないようで、一切止む気配はない。
俺は鞄を頭の上に乗せて、ただひたすら走る。
「はあ、かったる……」
と不意に、自分の意志と関係なく、そんな言葉が漏れた。
もちろん現在の、雨に打たれているという状況に対する不満も、少しはあるだろうが、真にかったるいことは別にある。
――今日の昼休み――
「和泉、俺は――って、え?」
ザアーー……
まさに絶妙のタイミングで、雨が降り出した。
「きゃっ、雨!? 陽平くん、早く中に入ろう。濡れちゃうよ?」
そう言うと、和泉は自分の弁当箱を片付けて扉に向かって駆けていく。
俺も慌てて自分の分を片付け和泉の後を追った。
二人同時に校舎内に飛び込む。
幸い、すぐに避難したので、二人ともさほど濡れていない。
自分の様子を確認しながら、和泉が先ほどのことを尋ねてきた。
「ねえ、さっき何か言いかけてなかった?」
「うっ……」
思わず口ごもる。
言わなければいけない、とわかっていても言葉が出て来ない。
くそっ、さっきは決心したのに!
先の騒動で、完全に気がそがれてしまったらしい。
「……陽平くん?」
黙り込んでしまった俺に、和泉は心配そうに声をかけてくる。
それでもなお、黙り込んでいると
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「わっ、マズい!? 陽平くん、戻ろう!」
そう叫び、和泉は走り去って行った。
和泉の姿が完全に見えなくなると、俺は小さな声で呟いた。
「……ちくしょう」
俺は、突然降ってきた雨と、不甲斐ない自分自身を呪った。
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